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池上正樹×斎藤環が語る、「働けないなら、水商売に行けばいい~ひきもる人々に降りかかる貧困ビジネス~」

ジャーナリスト池上正樹×精神科医斎藤環対談(2/3)

◆一番重要な、「親」をどう支えるか

 

斎藤 しかし、とにかく親が最初にして最後の支援者です。僕がときどきいうのは、どんなに治療者ががんばっても、親御さん以上のことはできませんと。これを最初に釘をさします。親御さんは人任せにしたいところがどうしてもあるので、釘を刺さざるをえないということも、ときには生じます。そのかかわりには「かかわらない」というかかわりも残念ながら認めないといけません。迷惑な毒親の場合については、ATMに徹していただいて、支援での関わりは外れていただくということも含めて、支えの第一人者ではあると思います。

 ただ、最近家族調査をしてわかったことですけど、家族も相当まいってきています。先ほども言ったようにひきこもりの平均年齢は34歳、親の年齢は65歳です。完全に高齢者です。

 親御さんに、鬱病尺度の「K6」というスコアをつけてもらったところ、12.9というすごく高い値が出ました。13点越えたら鬱病リスクが高いという判断になるスコアです。親も鬱病すれすれの人がいっぱいいると。こういう状況下で、こうしなさい、ああしなさいと言ってもそれは実現できません。気持ちも弱っているし、燃え尽きかけています。そういう意味で、今後どう親を支えるかということが本当に大事になってくるかと思います。

池上 当事者が長期化、高齢化するのは止められないのに呼応し、親御さんからの相談も年々深刻な内容になってきています。

斎藤 家族の安心をどう確保して、それを当事者に還元していくかということを考えないといけない。だから私がファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんと共著で書いた『ひきこもりのライフプラン――「親亡き後」をどうするか』(岩波書店/2012年)という本では、まずはお金の勘定をしてくださいと。金勘定しないで心配だけしていると、心身共に悪影響が出ます。自分の老後資金までちゃんと計算して、わが子を支えられる期間が限定的ということがわかったら、早い段階で福祉の利用も考えましょうと。そういう割り切った話をしたかったわけですが、幸いこれが少しずつ受け入れられています。

 心構えとか、接し方とか、それも大事ですが、経済的問題は、もう動かしようのない事実ですから。当事者が就労できなかった場合を想定して、ここまでは頑張れるけど、ここから先は無理という線引きをしたほうがいいわけですね。

 そうしないと、このあいだも親が子供を殺した心中事件がありましたよね。

池上 新潟県三条市で、73歳の母親が、50歳のひきこもり長男を殺害したという悲劇ですね。

斎藤 このパターンが激増はしないまでも、毎年2~3件くらいは起こっているわけです。多いパターンは親が寝たきりになるなどして、高齢になった息子が将来を悲観して、親を殺害して自分もあとを追おうとして失敗する、心中未遂ですよね。そして、自首をして捕まると。こういうパターンが初期は多かった。けれども最近はさっきのような逆のパターンもある。つまり、行き詰ったらもう無理心中しかないと、親が思い詰めてわが子を殺してしまう。実際そうだと思うんですよ。働く見込みもないし、お金も尽きるし、どうしたらいいんだ、と当然なってくる。

 楽観的になることも大事です。楽観自体が治療的ですけど、ただ絶対なんとかなるから何にも考えなくていいというのはまずい。むしろ、お金の現実を踏まえた上での楽観性が一番いいと私は思っています。ある当事者のかたは、親がお金の話を具体的にしてくれて、家にまだ経済的なゆとりがあるとわかったので、安心して就職活動に踏みだせましたと教えてくれました。ゆとりがあるほうが社会参加しやすいということも踏まえて、お金の話をしましょうと提案しています。

池上 最近、貯金がないとか年金ももらえていないなどの親御さんの家庭も増えてきているように思います。そういう家庭にとっては、なかなかライフプランを考えましょうと言っても、将来の金勘定以前に日々の生活の悩みで、実はピンとこなかったりします。現実的にもっと切羽つまっている人たちも結構いるみたいなので、そういう経済的にもう余裕のない家庭にどうアプローチ、どう支援していくかということが、これから社会、行政の支援者もそこを考えていかなければいけないと考えています。

 親への支援も大事なので、まず親に煮詰まらないというか、いろんな選択肢があるんだという情報やノウハウを提供して共有してもらう。そして、親自身が自分の殻を越えていかないと、子供も道連れに巻き込んでしまいかねない。そういう予備軍の親たちも多いと思います。

 当事者たちからも、親が死んだらどうしたらいいんだという相談もいっぱい受けています。どんな選択肢があるかは、それぞれ関係、人によって違うと思いますが、それを考えていけるような環境作り、そして親への支援を、これから考えていかなくてはいけないのかと思いますね。

斎藤 年金でも生保でも使えるものは全部使って。とりあえず経済的な見通しを立ててから、どうするかということを考えるのもありだと思います。

池上 そうですね。

斎藤 本人も、親御さんも、世間体を気にしますから。年金、生活保護に抵抗があって、なかなか受けたがらないですが。べつにずっとそれをもらって生きろというわけじゃない。自立までの一時金として、堂々ともらっていいんじゃないかということを言います。

池上 これまで十分がんばってきたんだから、もっと福祉の施策を頼ってもいいと思うんですよね。世間体とかいろんなプライドで、躊躇する、遠慮する、という文化というか土壌がある。特に地方にいくと強いんですけど。でも、それで子供巻き込んで、悲劇に至るくらいだったら、プライドや恥をかなぐり捨てて、呪縛から解き放たれれば、もっと楽になれて何でもできるのに……、って第三者的には思ってしまいます。

≪プロフィール≫

 

池上正樹(いけがみ・まさき)
1962年生まれ。通信社勤務を経て、フリーのジャーナリストに。97年からひきこもり問題について取材を重ね、当事者のサポート活動も行っている。著書に『大人のひきこもり』(講談社現代新書)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『ドキュメントひきこもり』(宝島SUGOI文庫)、『痴漢「冤罪裁判」』(小学館文庫)、共著書に『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)などがある。
 

 

斎藤環(さいとう・たまき)
1961年生まれ。筑波大学大学院教授。専門は思春期・青年期の精神病理・病跡学。家族相談をはじめ、ひきこもり問題の治療・支援ならびに啓蒙活動に尽力している。著書に『社会的ひきこもり』(PHP新書)、『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(ちくま文庫)、『ひきこもりのライフプラン』(岩波書店)、『ひきこもり文化論』(ちくま学芸文庫)など。

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